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福島地方裁判所 昭和46年(行ク)4号 決定

申請人 大越町わらび座実行委員会

右代表者委員長 松本長人

右訴訟代理人弁護士 安田純治

被申請人 大越町教育長 遠藤一雄

右訴訟代理人弁護士 今井吉之

主文

本件申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

理由

一、申請人の本件申請の趣旨および理由は別紙(一)のとおりであり、被申請人の意見は別紙(二)のとおりである。

二、当裁判所の判断

1、本件疎明資料によれば、つぎの事実が認められる。

申請人は、大越町における民族歌舞団わらび座の公演の会場として、同町立上大越小学校の体育館およびその附属設備の使用許可を同校校長渡辺正美を通じて、同町教育委員会に対して申請したところ、被申請人は、昭和四六年七月一日大越町公立学校使用料条例第三条第五号により、不許可処分をし、右小学校長を通じて申請人にその旨通知した。

2、そこで、右不許可処分に対する執行停止決定の許否について考えてみる。

(一)  一般的に、消極的な行政処分(不許可処分)に対する執行停止決定によっては、理論上も当該不許可処分がなかったのと同様の状態を形成するにとどまり、それ以上に積極的に行政庁に許可を強制し、あるいは許可を受けたのと同様の状態を形成するものではないと解すべきであり、実定法上も、行政事件訴訟法第三三条第二項のような規定がなく、またその準用も認められていない以上、同様の効果を有するにすぎないといわなければならない。

したがって、本件のように、当該行政処分によってはじめて申請人の前記体育館等の使用権限の成否が定まる場合においては、その不許可処分について、仮りにその執行停止決定をしたところで、被申請人に対して、右体育館等の使用許可を命じ、あるいは申請人にその使用権限を付与することになる訳ではなく、単に申請のなされた段階の申請人・被申請人間の法律関係を一時停止させるにすぎないから、この点に関しては、申請人においても自認するように、本件不許可処分の執行停止決定をしても法律的には無意味である。

(二)  ところで、申請人は、本件不許可処分が存在するため、再度の許可申請が妨げられているから、その障害を排除するためには、その執行停止が必要であって、法律上利益がある旨主張しているので検討を加える。

(1) 本件許可申請の理由に別個の理由を追加し、または理由を修正して申請することは、本件不許可処分の執行停止決定を待つまでもなく当然にこれをなしうるものであり、被申請人も、これに対する応答的行為をなさなければならないことはいうまでもない。

(2) 問題は、同一理由にもとづく再度の許可申請が許されるかどうかである。申請行為に対する応答的行政処分により、再度の申請が妨げられる効力を生ずるとする見解の根拠としては、同一理由にもとづく申請をくり返えさせることは、いったん行政庁の態度が示された以上、自発的翻意によるものでなければ別異の処分に変更される蓋然性はなく、行政庁の原処分の取消変更権が認められる限りでは(後述のように本件においては、行政庁の原処分の取消変更権があるものと考える)、無意味であり、いたずらに事務を繁雑にするにすぎないことにあると考えられ、行政処分のいわば公定力ないしは実体的確定力に起因すべきものというべきであろう。しかしながら、行政処分から直ちに実体的確定力を生ずるとする見解が相当でないことは明らかである。仮りに行政処分の公定力により、そのような再申請禁止効が生ずるとしても、不許可処分の執行停止決定がなされた場合の効力として、二通りに考えられる。すなわち、不許可処分の存在まで否定するものではないが、その不許可の効力のみを否定するものとすることと、不許可処分の存在を否定し、申請人の申請のみが残るものとすることとである。前者であるとすれば、行政処分自体は存在するのであるから、少くとも最初の申請に対する行政庁の態度が明らかにされているのであって、再度の申請の禁止効はなお存在するといわなければならない。また後者であるとすれば、申請人の申請行為まで払拭されるのではなく、それ自体は残存しているのであるから、再度の申請をする利益はないというほかはない。すなわち、本件不許可処分は、申請人に対する不利益な処分であるから、行政庁において再度の考案のうえ、原処分が違法ないし、不当と考えれば、申請人に有利に原処分を取り消して新たに許可処分をし、またはこれを変更しうるものであり、申請人からも実体的確定力が生じない前は行政庁に対して、原処分の違法ないし不当を指摘して、事実上職権による再度の考案を促すことができるからである。

(3) もっとも、執行停止決定がなされることにより、裁判所の当該行政処分に対する見解が示され、これが当該行政庁に対して何らかの影響力をもつことがありうることは考えられる。しかしながら、本件における執行停止決定の効果は前示のとおりであり、右にいう影響力は全く事実上のものにすぎない。本来効果的な効力を何ら有しないのに、事実上の影響力のみのために執行停止制度を認め、ないしはそのように運用することは、適当でないことは明らかである。

三、以上の理由により、その余の点について判断するまでもなく、申請人の本件申請は理由がないことに帰するから本件申請を却下し、申請費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 丹野達 裁判官 三井善見 石井彦寿)

〈以下省略〉

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